新海誠監督作品「君の名は。」
なにを隠そう、弘前まで行ったのはこの映画を観るのが目的でした。
新海誠監督作品「君の名は。」 このタイトルには元ネタとなる作品があるため、なんとなく聞き覚えのある人も多いでしょう。昭和初期にラジオドラマ・映画・舞台化されているそうな。
今回の映画でも、インパクトもあるし内容的にもぴったりだと思います。
公開から1週間足らず、平日の昼間、されどもファーストデイで映画料金は1100円均一…結果、人の入りはわたしの予想よりは多かったです。とはいえ半分も埋まってませんでしたが。
評判がよかったのでそこそこ期待して行きましたが、その期待をさらに越えてくれました。一言で言うなら「すっごい良かった。」です。
新海さんの作品歴
新海さんの作品は、メジャーな作品だと全部見ています。新海さんは自主制作から入っていて、初期作品は特に荒削りながらほとばしる若さと才能を垣間見ることができます。
初めて見たのが「秒速5センチメートル」新海さんファンの中ではもっとも人気が高いと言える作品。終わり方がせつなすぎるので、わたしは見返す気にはなかなかなれませんが…(落ち込んでいるときにみると引っ張られそう)。
ちなみに山崎まさよしさんの「One more time,Ome nore chance」が使われています。
その後「雲のむこう、約束の場所」「ほしのこえ」と初期作品を観ます。このへんは短いのであっという間。
「星を追う子ども」ではちょっと方向転換があり、ファンの間では意見が真っ二つに別れる作品。オマージュだと本人は言っていますが私の中ではナシですね…。
その後、「言の葉の庭」で一気に名をあげることになります。てっきり秦基博さんの「言ノ葉」が主題歌だと思って見たら違ったというエピソードが。
でも「Rain」もこの映画がきっかけで好きになった曲です。槇原敬之さんのバージョンも好き。
めくるめく展開の107分間
ストーリーに関しては、「主人公の男女が入れ替わる」というざっくりした設定だけを知っている状態で観ました。
そのため、途中までは想像通りというか定番の展開が続いたわけですが、後半はどんでん返しの連続。「えぇっ!「うわぁ…」「まじか」と何度声をあげたことか。
コメディとシリアスのバランスも良く、主人公ふたりもさることながら脇を固めるキャラクターが魅力的でした。おばあちゃんや友人たちもなかなか鍵になる言動・働きをしているので見逃せません。
長澤まさみが声を当てていたとは気づかなかったキャラも。(エンドロールで知る)
ストーリーの根幹に流れるものは、新海作品の中でずっと変わっていないように思います。離ればなれの男女をめぐる物語しかり、都会のコンクリートジャングル×田舎の自然風景の鋭い対比の見せ方しかり。
とはいえ「3.11で思ったことを描いた」という一言で大納得してしまう部分が大きかったです。実在する、しないの次元ではなく、「大切なものは一瞬先に突然消えてしまうかもしれない」という事実は、決して他人事ではないということ。
泣き所が2、3回ありましたが、人が少ない映画館で鼻をすするのは恥ずかしくw なんとかこらえました。でもまわりもけっこうすすってたわ。
ちなみにおっちゃんに聞いたら「え?どこで?」って反応。おっちゃんの感動ポイントも聞きましたが、自分とまったくかぶらなさすぎて逆にびっくり。
というわけで、男女ではまた感想が変わってくるのかもしれませんね。
ちなみに新海さんといえば「終わり方がモヤっとしてる」で定評があります。でも今回の終わり方は、わたしとしては今までで一番良かったと思います。
別パターンも考えられたし、おっちゃんはそっちのほうが良かったというけど、一般的にわかりやすいのはこれなんじゃないかという着地でした。
そして圧倒的に美しかった彗星の描写。おのおのがそれぞれの場所で見上げる空。「片割れ時」といううつくしい言葉…。
タイムスリップだってどんな奇跡だって素直に受け入れたくなりますわい。
劇中音楽の効果
今回音楽はRADWIMPSが担当しています。ラッドで好きな曲はもともと幾つかあって、アルバムも持っていたりするんですが…
今回はほんとぴったりだった!疾走感あふれるオープニングも、訴えかけるエンドロールもすごく良かったですねえ。
この曲はすごく頭に残るし、今世の中で流れまくりでしょう、きっと。(知らんけど)
近頃の流行りものの音楽、というくくりで見た中では、野田さんは突出した才能の持ち主だと思っております。(はい、勝手に思ってるだけです)
大衆向けエンターテイメントへ
新海さんといえばそこまでメジャーな監督ではなく、最近アニメ界で注目されているのはどちらかというと細田守さんのイメージ。「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」などで人気を得た監督さんです。
映像美という特徴からもわかるように、職人さんタイプの新海さんのような監督の場合、自分の表現したい世界やテーマが先に強くあり、「観る人のため」というよりも「自分のやりたいことのため」が優先されるのではないでしょうか。
もちろんそれが悪いわけではないんですが、ある程度の「一般ウケ」というラインは越える必要がありますよね。これからも作り続けていくために。
その点において今作は、大きく弾みがついたのではないでしょうか。
インタビューの中で「自分を知らない層に向けて作った」と言っているように、ひとつの大きな殻を破った感があります。より「メジャー」な方向へ大きく舵をとったような。
アニメーターの方と組んだり、プロデューサーに川村元気さんを起用したりといった部分に、そのあたりの意志を感じました。
それでいて新海さんが本来得意とする映像美、劇中音楽とのコントラストなども一層輝きを増し、新海さんを知らない層にもしっかりとそれを刻みつけてくれたと思います。
小説版バカ売れ
新海さん作品は、ご本人が原作小説も書かれることが多いのも特徴。今回も例に漏れず…なんですが、売れに売れてなんと発売前の時点で50万部突破だそう。
「言の葉の庭」から期待値が高まってた層は、意外と多かったのかもしれない。
長編というほどの厚みでもなく、表紙はアニメの絵でかわいいし、子どもでも読めるようにふりがなつきだそう。そのへんも売れやすいポイントでしょうか。
前知識がなくても、ふだん特にアニメ観ないしな~という人にもおすすめです。DVDになったら見返したいなぁと思うほど、お気に入りの作品となりました。
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